研究の目的と発案について

エビデンスに基づくアロマセラピートリートメントの科学的検証:企画・発案  小川佳苗

このレポートは2010年9月東京で行われましたIFA25周年での発表を今回本誌に載せるにあたって分かり易く簡潔に編集したものです。このレポートの特徴はアロマセラピーが心身と魂に呼応するということを医療関係者を含む多方面の方々へも認識を深めていただき、アロマセラピーの医療機関と施設への働きかけが、より効果的に進んでいくように医療研究に使用する本格的なエビデンスを礎として組み立てられているという点です。この研究が今後の更なるアロマセラピーの発展に繋がればと願っております。

アロマセラピートリートメントが有効であるというエビデンスは今までにも様々なものが既にありますがアロマセラピートリートメント全行程について睡眠効率、主観的評価、自律神経機能、血液検査による活性酸素の変化など多方面から一度期に検証しているものはこれが初めての研究になります。これらの検証基準は疲労科学を専門に研究されている疲労学会会長の倉恒弘彦教授の数十年にわたる膨大な研究より確立されてきました。見えない疲労を量る有効な測定基準が判明してきたということです。その中で病気と疲労の関係もわかってきました。今後日本は医療費がかさむ社会構造がみえている中で先生の研究は厚生労働省の疲労を量る基準になっていくようです。そして少しでもこの研究がアロマセラピーと医療が役割分担する統合医療へ貢献する道しるべになってくれればと思います。

先生の研究では青葉アルコールや青葉アルデヒド(一般に森林浴と言われる香りの一つ)に疲労を癒す科学的根拠があることは判明していました。

倉恒教授の「アロマセラピーは効果があると思うけどはっきりした検証がまだされていないね。しっかりプロトコルを組んで科学的に検証するといいのでは」の言葉で背中を押して頂き、今回の研究に至りました。プロトコルが不十分な組み立てだと実験結果に大きな誤差が出たり、出た結果が信用できないものになるようです。私は研究素人なので判断しにくいところですが先生のご指摘によりスムーズに進みました。

また、人体に直接行う実験でもあり当社と各医療機関専門の先生方と当研究専用の倫理委員会を立ち上げ、研究目的、研究内容、プロトコルなど全て吟味しながら委員会の承認を得て倫理的にも正しく安全に研究を行えたこともお知らせしておきたいと思います。

アロマセラピートリートメントの効果の科学的検証

Scientific Evidence of the Effects of Aromatherapy Treatment ╱ English version PDF
小川佳苗1)、垣本美香1)、山本直美1)、倉恒弘彦2)、田島世貴3) 、辻ゆきえ4)
1)アロマセラピー専門店 テイカ/Teika
2)関西福祉科学大学健康福祉学部
3)兵庫県立総合リハビリテーションセンターリハビリテーション中央病院
子どもの睡眠と発達医療センター
4)地方独立行政法人 大阪府立病院機構 大阪府立母子保健総合医療センター

【目的】

慢性的な疲労の治療としては、身体機能の回復とともに、心の癒しが求められており、内科療法、精神神経科療法、理学療法、作業療法、スポーツ療法、音楽療法などのこれまでのスタンダードな治療のほか、最近では自然との触れ合い(自然療法)や園芸を介した心のケア(園芸療法)なども病院での治療として採用され効果をあげている。このような中、アロマセラピートリートメントは、日常の疲れだけでなく、精神・神経疾患や身体疾患に対しても広く行われており、疲労回復と共に心のいらだちや不安、抑うつの回復がみられているという。しかし、このような治療が実際に心身のどこに、どのような効果を与えているのかについて科学的に検証した報告はあまりない。そこで、本研究では月経困難関連症状を訴えて来店した被験者に対して、我々が日常的に行っているアロマセラピートリートメントを施行し、被験者の臨床症状と共に自律神経機能や睡眠・覚醒リズムに与える効果について検討を行なった。

【方法】

対象者は月経困難関連症状を訴えて来店した女性19名(年齢32.6±6.6歳)である。本研究は約1ヶ月の間隔をおいて、アロマセラピートリートメントを受けた場合とコントロール(同じ環境にて安静にしていた場合)のクロスオーバー法による比較試験にて実施した。自覚的な臨床症状は、主観的評価としてVisual Analogue Scale(VAS)を用いて、疲労の程度、気分の落ち込みの程度、イライラ感の程度、活力の程度、不安感の程度、緊張の程度、意欲の程度、体調の程度、脱力感の程度、頭痛・頭重感の程度の各症状の変化を、施行前、施行直後、施行1時間後、施行翌日の4回評価した。自律神経機能については、アルテット(㈱ユメディカ社製)を用いて施行前、直後の2回、加速度脈波の周波数解析よりLF(低周波成分:0.02-0.15HZ)/HF(高周波成分:0.15-0.5HZ)比を算出し、交感神経系/副交感神経系のバランスを評価した。睡眠・覚醒リズムは施行の前日と施行日を含めて48時間米国AMI社製アクティグラフを装着し、睡眠効率、中途覚醒について評価した。尚、今回行ったアロマセラピートリートメントでは、事前にブレンドされたオイル(濃度2%)を使用した。この中には精油10種類(Lavandura angustforia、Pelargonium graveolens、Origanum、majorana、Cedrus atlantica、Mentha piperita、Ocimum basilicum、Litsea cubeba、Jasminum grandiflorum、Salvia sclarea、Foeniculum vulgare)が含まれている。 また、トリートメントは以下のように60分間実施した。

①コンサルテーション(皮膚の状態や体調、禁忌などの確認)後、着替え
②(伏臥位)背中→腰→臀部→上肢→下肢背面→足裏
③(仰臥位)デコルテ→腹部→下肢前面→足先
※各部位にかかる時間は、対象者の症状や訴えによって10分前変動させた

【結果】

主観的な臨床症状の1つである疲労感については、図1に示すように1時間のアロマセラピートリートメントを受けた群は直後より統計学的に有意に症状が改善し、翌早朝も疲労感は軽減していた。一方、コントロール群も1時間の安静により有意に改善がみられたが、その改善はアロマセラピートリートメント群がコントロール群と比較してより大きく統計学的に有意なものであることが確認された(p<0.001、三元配置分散分析)。

図1.アロマセラピートリートメントを受けた時とコントロール時の疲労感の変化

同様にVASを用いて評価した臨床症状では、気分の落ち込み(p<0.001)、いらいら(p<0.001)、頭痛(p<0.01)、不安感(p<0.001)、緊張(p<0.001)、意欲(p<0.01)、体調(p<0.01)の項目において、アロマセラピートリートメント群がコントロール群と比較して統計学的に有意に改善がみとめられた(三元配置分散分析)。次に、アルテット(㈱ユメディカ社製)を用いてアロマセラピートリートメント日とコントロール日ともに自律神経機能を評価できたものは13名であった。施行前後のLF/HF比は、アロマセラピートリートメント群は前:1.25±0.81、直後1.20±0.70、コントロール群は前:1.27±0.70、直後1.77±0.88とコントロール群ではLF/HF比の上昇傾向がみられたが、アロマセラピートリートメント群では変化がみられなかった。アクティグラフを用いて睡眠・覚醒リズムを解析できたものは11名であり、アロマセラピートリートメント群は前日:睡眠効率97.1±3.5%、中途覚醒3.5±3.1回、施行当日:睡眠効率98.2±1.2%、中途覚醒3.4±3.3回、コントロール群は前日:睡眠効率96.4±2.8%、中途覚醒5.2±3.3回、施行当日:睡眠効率96.1±4.0%、6.3±7.5回と、アロマセラピートリートメント群では睡眠効率の改善傾向がみられたが、コントロール群では変化がみられなかった。

【考案】

まず、今回のクロスオーバー法によるアロマセラピートリートメントの評価により、自覚的には気分の落ち込み、いらいら、頭痛、不安感、緊張、意欲、体調などの症状が明らかに改善していることが確かめられた。このことは、これまでも月経困難関連症状を訴えて本店に来店した顧客の多くが疲れなどの症状が楽になったと言い、再び来店するリピーターが多いことからも予想されていたことであるが、同じ環境にて1時間休息しているコントロール群と比較して有意な変化であることが確認されたことは意味深い。また、自律神経機能評価については、今回の検証ではアロマセラピートリートメントによる効果を実証することは出来なかったが、これは被験者のLF/HF比が2以上の相対的交感神経機能亢進状態にあったものが13名中2名であり、ほとんどのものでは自律神経機能が正常であったことに起因していると思われる。これまでの報告では、慢性的な疲労がみられる被験者では、安静にしていてもLF/HF比が3程度に上昇し相対的な交感神経機能亢進状態にあり、このためになかなか寝付けない、寝付いても何度も目が覚める(中途覚醒の増加)に結びついているという。そこで、アロマセラピートリートメントの効果を検証するためには、今後は自律神経機能異常がみられる被験者を対象とした評価を行うことが重要であると考える。尚、アクティグラフを用いて評価した睡眠状態の変化についても、今回の検証では睡眠効率の改善傾向はみられたが統計学的な有意差を見出すことはできなかった。これは、自律神経機能と同様にアロマセラピートリートメント群では検査を行った11名中5名の睡眠効率が99%以上と極めて良好な睡眠状態にあったことによると思われる。実際、睡眠効率が99%以下であった6名の成績は、前日:睡眠効率94.9±3.4%、施行当日:97.2±2.0%と改善がみられていた。

以上の結果より、今回の検証にてアロマセラピートリートメント効果の科学的検証に向けた大きな手がかかりを得られたと思われるが、さらにより明確なものとするためには、実験対象とする被験者をあらかじめ検討して、自律神経機能や睡眠障害などの症状がみられる被験者に対して行うことが望ましいと考えられた。

【謝辞】

以上の結果より、今回の検証にてアロマセラピートリートメント効果の科学的検証に向けた大きな手がかかりを得られたと思われますが、さらにより明確なものとするために、実験対象とする被験者をあらかじめ検討して、自律神経機能や睡眠障害などの症状が顕著にみられる被験者に対して行うことが望ましいと考えられます。今後これらの研究に協力いただける医療機関、団体がありましたら是非お声掛け頂きますようお願い申し上げます。これからもより多くの方に研究に参加いただきアロマセラピーの認知、広がりに少しでも貢献できたらと願っています。

説明会について
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